大判例

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福岡高等裁判所 昭和61年(行コ)34号 判決

控訴人

春田篤

控訴人

福井孝良

控訴人

立川重高

控訴人

木部義昭

右控訴人ら訴訟代理人弁護士

立木豊地

谷川宮太郎

吉田雄策

尾山宏

吉川基道

槇枝一臣

被控訴人

北九州市教育委員会

右代表者委員長

上原勇策

右訴訟代理人弁護士

俵正市

苑田美穀

山口定男

立川康彦

大久保重信

右指定代理人

山県正宣

奥竹繁

田所秀一

福本啓二

右当事者間の懲戒処分取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

一  控訴人らは、「1原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。2被控訴人北九州市教育委員会が、昭和四五年八月二二日付でなした控訴人春田篤に対する減給四カ月、同福井孝良に対する停職四カ月、同立川重高に対する停職二カ月、同木部義昭に対する減給四カ月の各懲戒処分は、これを取り消す。3訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示中控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決五枚目表五、六行目の「教育研究粗織」(本誌四九二号24頁1段31行目〈以下同じ〉の〈以下事実略〉)を「教育研究組織」と、同一二枚目裏末行の「本件研修部会」(〈以下事実略〉)を「本件研究部会」と、同一三枚目裏一一行目の「各部会」(〈以下事実略〉)を「同部会」と、同三三枚目裏一一行目の「坑議交渉」(〈以下事実略〉)を「抗議交渉」と、同四一枚目表一〇行目の「日同主張の場所」(以下事実略〉)を「日時、場所」とそれぞれ改める。

2  同四三枚目表末行末尾(〈以下事実略〉)に改行して「そして、そのような行為に該当するか否かの判断にあたっては、当該公務員がそのような行為をなすに至った経緯、その間の行政庁側の対応、行為の程度、態様、その行為によりもたらされたとする公務への影響の程度と内容等諸般の事情が考慮されるべきである。」を加える。

3  同四四枚目裏末行末尾(〈以下事実略〉)に改行して「すなわち、教育は、発達可能態としての子供の豊かな成長発達を実現していくものとして、すぐれて創造的営みである。そのようなものとしての教員の教育活動には、十分な自由ないし自主性が保障されなければならない。そして、教員の自主的で自発的な日常不断の研修こそが、子供たちの豊かな成長発達を保障する創造的な教育活動を生むのである。そのような教育活動は、教育委員会や校長の命令による教育活動、研究活動からは、決して生まれない。これが教育条理である。そして、憲法二六条、二三条、教育基本法一〇条は、こうした教育の本質・特性=教育条理をふまえて、教員の教育の自由及びその一環としての研修の自由を保障しているのである。もとより、教員も地方公務員である以上、職務命令から完全に自由であるわけではない。たとえば、勤務の外形的事項(勤務時間を守っているかどうかなど)や服務規律については、教員にも職務命令が妥当するが、教育の内的事項(研修に即していえば、特定の研修会に参加するかどうか、研修会の運営をどうするか、研修内容をどうするかなど)については、教員に対する職務命令は妥当しないものと解しなければならない。

また、仮に、教育委員会には、教育委員会が研修内容を一方的に企画・立案した研修会への参加を教員に強制する権限を有するとしても、本件研究部会の実態は、教育委員会・校長の教員研修実施権・職務命令権を濫用したものとして、違法たるを免れない。すなわち、六・一通知は、(1)部会の編成については、各教員は校務分掌である校内研究組織に従って、各部会に所属する。(2)部会の運営について、各部会には部会を主宰するために部長一名をおき、校長をもって充てる。部長は校長会研究組織の分掌による。としている。このように、校長・教員の部会の所属を決め、各研究部会を恒常的な組織とし、各部会の運営について校長を部長に充てるものとし、これを法的拘束力をもって決定・伝達し、もって、長年にわたり実施されてきた、教育委員会・校長会、教員組合の三者共催による研修方式を変更し、職務命令をもって強制することは、本人の意思に反しても行わなければならないとする合理的な理由は見出しえないので、教育委員会の教員研修実施権・校長の職務命令権を濫用したものというべきである。

なお、原判決は、職務命令を拒否しうる場合は、職務命令が重大かつ明白な違法性を帯びる場合に限られるとする。しかし、本件の場合は、各校長の研究部会参加の職務命令は遵守されているので、職務命令拒否の適法性の有無が問題になっているわけではないから、職務命令の公定力が問題となる余地はない。」を加える。

4  同四七枚目裏三行目の「範囲内のものである。」(〈以下事実略〉)の次に「仮に、研修が勤務条件そのものではないとしても、そのことの故に、控訴人らの本件各行為が『教員団体』としての行為から除外されるものではなく、かつ、研修命令が仮に適法とされるからといって、その当否をめぐって『教員団体』との協議を尽くしてなされるべきであることにはかわりはない。」を加える。

5  同四九枚目表九行目の「研修体制」(〈以下事実略〉)の次に「の慣行」を、同裏六行目の「支障を与えていない。」(〈以下事実略〉)の次に「〈5〉本件命令研修は、高石教育長の極めて特異な個性とその一貫した日教組敵視政策の一環として行われたものである。」をそれぞれ加え、同行目の「〈5〉」(〈以下事実略〉)を「〈6〉」と改める。

6  同五〇枚目表四行目末尾(〈以下事実略〉)に「〈7〉被控訴人が、本件懲戒処分にあたって、その対象者の選定と処分の内容の選択において、一体どのような方針と基準を設定したのか不明であり、むしろそこには、場当たり的で全く首尾一貫せず、極めて恣意的なやり方であったことが窺われ、控訴人らに対する本件懲戒処分は著しく不平等な取扱いといわざるをえない。」を加える。

7  同五一枚目表一〇行目(〈以下事実略〉)及び末行(〈以下事実略〉)の各「主張2(二)」をいずれも「主張1(六)」と、同五二枚目裏一二行目の「本件記録」(〈以下事実略〉)を「原審及び当審記録」とそれぞれ改める。

三  当裁判所も、控訴人らの被控訴人に対する本訴請求はいずれも理由がなく、失当として棄却すべきものと判断するもので、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決理由中控訴人らに関する部分の説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決五四枚目裏四行目の「反すを部分」(24頁2段13行目)を「反する部分」と、同五五枚目表三行目の「著しいものがあった」(24頁2段28行目)を「著しいものがあり、全市的に教育水準も低かった」とそれぞれ改め、同五六枚目裏五、六行目の「日教組の闘争方針にそって」(24頁4段23~24行目)を削る。

2  同六一枚目裏八行目(26頁2段15行目)、同六二枚目裏一〇行目(26頁3段20行目)、同六三枚目裏三行目(26頁4段11行目)、同六四枚目表五行目(26頁4段33行目)、同六五枚目裏初行(27頁2段14行目)、同六六枚目裏二行目(27頁3段18行目)、同六七枚目裏初行(27頁4段18行目)、同六八枚目裏二行目(28頁1段19行目)、同六九枚目裏二行目(28頁2段20行目)、同七〇枚目表一〇行目(28頁3段12行目)、同七一枚目表九行目(28頁4段13行目)、同七九枚目裏三行目(30頁4段32行目)、同八一枚目表一一行目(31頁2段31行目)、同八二枚目裏六行目(31頁4段9行目)、同八三枚目表一二行目(32頁1段1行目)、同八四枚目裏八行目(32頁2段16行目)、同八五枚目裏八行目(32頁3段17行目)、同八六枚目裏六行目(32頁4段14行目)、同八七枚目裏五行目(33頁1段13行目)、同八八枚目裏三行目(33頁2段13行目)の各「被告の主張4」ないし「被告主張4」をいずれも「被控訴人の主張3」とそれぞれ改める。

3  同六二枚目表一二、一三行目の「野次を飛ばし」(26頁3段5行目)を「次々と発言し」と改め、同六三枚目表四行目の「ることができ、」(26頁3段30行目)の次に「原審証人菅野和子の証言及び」を、同一一行目の「開会を宣し、」(26頁4段5~6行目)の次に「部外者に退場命令を出して」をそれぞれ加え、同末行の「大声で」(26頁4段8行目)、同六四枚目表四行目の「著しく」(26頁4段32行目)、同六五枚目表五行目の「や野次」(27頁2段1~2行目)をそれぞれ削る。

4  同六五枚目裏八行目の「右各原告」(27頁2段25行目の(証拠判断略))の次に「(控訴人福井については原審及び当審における)」を加え、同六六枚目裏九行目(27頁3段27行目の(証拠判断略))、同六七枚目裏八行目(27頁4段24行目の(証拠判断略))、同六八枚目裏八行目(28頁1段27行目の(証拠判断略))、同六九枚目裏九行目(28頁2段27行目の(証拠判断略))、同七〇枚目裏二行目(28頁3段19行目の(証拠判断略))、同七一枚目裏二、三行目(28頁4段21行目の(証拠判断略))の各「原告福井」をいずれも「原審及び当審における控訴人福井」とそれぞれ改める。

5  同六七枚目表一〇、一一行目の「怒号して」(27頁4段14行目)を「言って」と、同六八枚目表六行目の「怒号して」(28頁1段6行目)から同八行目の「大声で怒鳴り」(28頁1段9行目)までを「同部会の主宰者である部長(同中学校長中尾邦雄)に大声で繰返し言って室内を騒然とさせ、更に、『部長は認めない。』などと言い」と、同六九枚目表四行目の「これが正常な研修会か」(28頁2段4行目)を「この部会を正常な部会だと思うか」と、同七〇枚目表四行目の「問い資した」(28頁3段3行目)を「問い質した」と、同七一枚目表三行目の「怒号して」(28頁4段5~6行目)を「言って」とそれぞれ改める。

6  同七九枚目裏初行の「八幡支部副支部長」(30頁4段28~29行目)を「八幡地区副地区長の」と改め、同八〇枚目裏一、二行目の「その前に立ちはだかり」(31頁1段32~33行目)を「部長を取り囲み」と、同五行目の「乱入し」(31頁2段4~5行目)を「無断で入室し」とそれぞれ改め、同六行目の「、江口各」(31頁2段6行目)を削り、同一一行目の「大声をあげて威嚇した」(31頁2段12~13行目)を「大声で抗議した」と、同八一枚目表七行目の「語気荒く」(31頁2段25行目)を「言って」と、同八二枚目表一〇行目の「怒号して」(31頁3段29行目)から同一一行目の「怒鳴り」までを「部長に大声で繰り返し言って室内を騒然とさせ、また『部長は認めない。』などと大声で言い」とそれぞれ改める。

7  同八三枚目表一〇、一一行目の「アジ演説等を大声でながながと繰り返し」(31頁4段32~33行目)を「組合の考え方などをかなりの時間勝手に話し」と、同八四枚目表三行目の「最前列に座り」(32頁1段22行目)を「前に立ち」と、同裏九行目の「主張の日」(32頁2段18行目)を「主張の日時」と、同八五枚目表一〇行目の「野次り」(32頁3段2行目)を「発言し」と、同一一行目の「本件研究部会」(32頁3段4行目)から同一二行目の「繰り返して」(32頁3段5行目)までを「研究部会の研修のあり方、研修の自由、研修の考え方などについて二〇分にもわたり大きな声でとうとうと述べて」とそれぞれ改める。

8  同八七枚目表二、三行目の「大里小学校」(32頁4段24行目)を「大里南小学校」と同末行の「右二名の」(33頁1段6行目)を「木本」と、同八八枚目表一一行目の「詰め寄り」(33頁2段5行目)を「発言し」と、同八九枚目表六行目の「野次を飛ばして」(33頁2段32~33行目)を「叫んで」とそれぞれ改め、同九行目の「大声で」(33頁3段4行目)を削る。

9  同九〇枚目裏一二行目末尾(33頁4段30行目)に「また、このように、教育公務員については、その使命と職務の特殊性から研修義務を不可欠なものとして明定しているが、任命権者が職務命令によって研修を強制することを排斥しているものとは解されない。」を加える。

10  同九二枚目裏六行目末尾(34頁2段33行目の「である。」)に「なお、控訴人らは、職務命令を拒否し得るのは、その違法性が客観的に重大かつ明白な場合に限られると解することについて、本件の場合は、各校長の研究部会参加の職務命令は遵守されているので、職務命令拒否の適法性の有無が問題になっているわけではないから、職務命令の公定力が問題となる余地はない旨主張する。しかし、控訴人らは、本件職務命令の受命者ではない(控訴人木部にかかる(一)の事実を除く。)にもかかわらず、職務命令に従い実施されている本件各研究部会の運営を妨害し、その実質審議を不能ならしめたものであり、その控訴人らが職務命令の違法を主張する以上、職務命令拒否者以上に右の理が妥当すると言わなければならず、控訴人らの右主張は採用できない。」を加える。

11  同九三枚目裏四行目の「関与」(34頁3段33行目)を「介入」と、同九四枚目表初行の「児童、生徒に及び」(34頁4段14行目)から同三行目の「示していた」(34頁4段17行目)までを「児童、生徒に及び、学校では自習が多く、全市的にみて教育水準が低かった」と、同五行目の「立遅れ」(34頁4段20行目)を「低さ」と、同末行の「本件職務命令」(35頁1段1行目)を「本件研修命令」とそれぞれ改める。

12  同九四枚目裏九行目の「正当なものであり、」(35頁1段15行目)の次に「あるいは、仮に、研修が勤務条件そのものではないとしても、そのことの故に控訴人らの本件各行為が『教員団体』としての行為から除外されるものではなく、」を、同末行の「事項ではないし、」(35頁1段21行目)の次に「控訴人らがいう『教員団体』は職員団体としての一側面をいうにすぎず、地公法五六条が適用されるのは職員団体としての行為についてであるから、その該当性を判断するにあたって『教員団体』であることをもって別異に解すべき理由はなく、」を、同九五枚目表一二行目の「原告らは、」(35頁2段6行目)の次に「控訴人らの行為の目的・動機の正当性、手段・方法の相当性、結果の軽微性、本件処分の苛酷性・不平等性についてるる主張して、」を、同九六枚目表一一行目の「照らすと、」(35頁3段11~12行目)の次に「かなりの期間部会が共催されていたことを考慮しても、」をそれぞれ加える。

13  当審で取り調べた証拠によっても前記引用の認定判断を左右するに足りない。

四  よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 緒賀恒雄 裁判官 木下順太郎 裁判官田中貞和は転任につき署名捺印をすることができない。裁判長裁判官 緒賀恒雄)

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